口ごもりながらもしっかりと言葉を伝えてくれる風音さんに、俺はある一つの出来事が頭をよぎった。

 まさか……あの日のこと?

 確証なんてないけど、外の事だったらあの日しかない気がする。

「見かけたときに、苦しくて悲しくて……その後に、ある事に気付いちゃって……。」

 苦しくて悲しい……それってまさか……。

 ……いや、そんな夢みたいなこと、あるわけがない。

 ふっと頭に浮かんだ事を急いで否定する。

 そんなわけないはず……。

 だけど、そんな俺に聞こえたのは耳を思わず疑うようなことだった。

「私……珠洲島君のこと……す、好きだってことに気付いて……。」

 ……風音さん、今俺のこと”好き”って言った?

 さっきの言葉が信じられずに目を見開いて固まっていると、風音さんは俺の腕から抜け出して俺の瞳を捉えた。

「本当は……気持ちを伝えないでいるつもりだった。この気持ちは忘れようって。……だからわざと冷たくしてた。本当にごめんなさい。」

 申し訳なさそうに眉の端を下げて言ってくる風音さん。