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「僕はもう兄さんから離れないって決めたから」
朱がひどく不機嫌そうに私を見る。
私はそんな朱に苦笑いを浮かべた。
琥珀たちが買い出しから帰って来た後、様子のおかしい姫巫女を見て、琥珀たちは今の今まで何があったのか、と問いかけてきた。
なので私と蒼は琥珀たちが買って来たご飯を食べながら今さっきまで起きていた出来事を簡潔に説明していた。
そして今の状態である。
「そもそも紅はもっと自覚した方がいいだろ。自分が可愛いって。それで身の守り方を考えるべきだ」
「それに関しては武さんに同意です」
攻めるように私を見る武に珍しく朱が賛同している。
いつも意見が全く合わない2人だがこのことに関しては意見が一致したらしい。
「怖い思いをしたんだな」
意気投合する武たちをよそに琥珀が先ほどの蒼のように私の頭に優しく触れる。
少しむず痒い。子ども扱いをされている気がする。
「…ここじゃないところに行きたいかも」
突然小さな声で姫巫女が呟く。
「ここにいるとさっきのこと思い出しちゃう」
泣きそうな姫巫女の顔にみんなの顔が一気に引き締まる。
「では違う場所へ行きましょう。姫巫女様が行きたいところへ」
蒼が優しくそう言ったことによって私たちは場所を移動することにした。
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姫巫女が選んだのは人がいない大きな岩陰だった。
姫巫女曰く「ここでなら人がいないから落ち着ける」らしい。
「みんな私のために移動してくれてありがとう」
私たちに花のように笑う姫巫女にもう恐怖の色はない。
やっと落ち着いたみたいだ。
ここで私たちは先ほどの昼食の続きを食べることにした。
「…」
あれ。
昼食中、ある違和感を覚える。
わずかだが妖の気配を感じる気がする。
集中しないとわからないほどのものだ。
隠しているのか弱いのか。
もし前者ならかなり力のある部類になるだろう。
私は手に持っていた箸を置いて気配を探ることに集中した。



