side武
反省会を始めて数時間後。
いよいよ俺たちの体力も限界が迫っていた。
一日中実戦をした後は流石に眠たくなる。
俺の隣に座る紅なんて首をカクカクさせて寝ているのか起きているのかわからない。
「…紅」
眠たいが、なんとか紅の名前を呼んでみる。
だが、スースーと規則正しい寝息が聞こえるだけで返事はない。
やっぱり寝たか。
首をずっとカクカクさせるのもあれなので俺は自分の肩に紅の頭を乗せた。
俺も少しだけ仮眠を取ろう。
もう限界だ。
少しだけ寝て、ちょっと経ったら起きればいい。
その後に紅をベッドに運んでも遅くないはずだ。
そんな言い訳を頭に並べながら俺もゆっくりと意識を手放した。
今日の夢こそは幸せな夢でありますように。
*****
姫巫女、由衣と2人で学校の廊下を歩く。
俺たちが歩けば生徒たちは道を開け、由衣を神様でも見るような目で見つめる。
その視線は正しい。
由衣は俺たちにとって神様…いや、女神様のような存在だからだ。
誰にでも優しく思慮深く、だが、時には問題解決の為に大胆に必要な場面では自分を犠牲にまでできる。
例え姫巫女ではなくても由衣は誰からも女神として崇められる存在になるだろう。
「あ…」
いつも穏やかな笑みを浮かべている由衣の表情が突然曇る。
その原因は何なのか由衣の視線を辿れば、生徒たちの中に紅がいた。
紅もこちらに気が付いているようだが、由衣のように暗い表情は浮かべず、平然としている。
…由衣にあんなことをしておいて何で平然としているんだよ。
「おい」
俺は紅の態度に腹が立って思わず紅を呼び止めてしまった。
「何」
表情こそ変えないが、迷惑そうに紅がこちらを見つめる。
「由衣が怖がっているだろ。その顔やめろ」
「…由衣って。そこにいらっしゃるのは姫巫女様だよ?武こそ、姫巫女様相手にそんな態度やめなよ」
「由衣は姫巫女様である前に1人の人間だ。友達もいない環境で1人だけ特別扱いされて壁を作られて嬉しいか?孤独なだけだろう?」
「あー、そうですか。ご立派ですね、冬麻家の次期当主様は」
紅が呆れたように俺と由衣を見て笑っている。
そんな紅の態度を見て、俺の中の怒りはますます大きくなっていった。
何もおかしなことなんて言ってないのに何笑っているだ、コイツ。
「…実戦大会の日、何で由衣からの祝福のキスを拒否したんだよ。しかもその後由衣のこと突き飛ばしたよな?」
「突き飛ばした?助けようとしたの間違いでしょ?」
いや、紅はあの日、確かに由衣を突き飛ばした。
実戦大会の日、接戦を制して優勝した紅に贈られるはずだった、由衣からの祝福のキス。
だが、紅はそれを拒否し、あろうことか自分に近づいてきた由衣を突き飛ばしたのだ。
2人がいたのはちょっとした高台だった。
そこから転落した由衣はあわや大惨事というところで蒼の風の能力で助けられた為、無事だった。



