*****
全員が見守る中、ついに始まった決勝戦。
私でさえどちらが勝つのかわからず見ていたが、手に汗握る激しい攻防を制したのは蒼だった。
勝敗が決まったあの時の姫巫女の明らかに嬉しそうな顔ときたら。
「わ、私、蒼くんにキ、キスしちゃうの…?」と乙女な表情で呟いていた。
1番お気に入りだもんね、蒼。
残念だったね、琥珀。
「何だ、その視線は」
決勝戦が終わり、会場から姫巫女の護衛に戻ってきた琥珀が私の哀れみの視線に気づき、無表情ながらもどこか怪訝そうにこちらを見つめる。
「別にー。惜しかったね。お疲れ様」
「…ありがとう」
私の言葉に何か言いたげだったが、一言だけお礼を言うと琥珀はまだ会場内にいる蒼に視線を向けた。
今この場にいる全員が蒼を見ているはずだ。
2年連続優勝、連覇達成に武道館内は今日1番の熱気を帯びていた。
本来なら私が優勝していたんだけどね。
ここからは1度目と違うから全然この後の展開がわかんないや。
「蒼くん」
蒼に恥ずかしそうに近づくのは姫巫女だ。
頬を少しだけ赤く染めて恋する乙女の表情をしている。
「ゆ、優勝おめでとう。かっこよかったです…」
蒼の側に来ると姫巫女はそう言って下を向いてしまった。
「ありがとうございます。姫巫女様」
そんな姫巫女に蒼はふんわりと王子様ような笑顔を向ける。
「ゆ、優勝者には私からの祝福のキ、キスなんだけど…。あのえっと恥ずかしくて…」
「わかっています。こんなにもたくさんの人の前ではそうでしょう。なので、無理はしていただかなくて結構ですので」
「…み、みんなの前では無理だけど2人きりでならし、してもいいよ?せ、せっかく優勝したんだし」
1度目とは全く違う姫巫女の照れ具合に思わず心の中で笑ってしまう。
1度目の私の時は全く恥ずかしがっていなかった。
まあ、同性の私にキスするのと、異性、それもお気に入りの蒼にキスするのとではハードルが違うか。
「大丈夫です。お気持ちだけいただきます」
「…で、でも」
恥ずかしくてもどうしても蒼にキスしたいらしい。
姫巫女を気遣って断っている蒼とどうしてもキスしたい姫巫女で微妙に話がズレている。
蒼王子様は気遣いさせればNo. 1なのにどうしたの。
「姫巫女様、お手をどうぞ。優勝者の僕の花として一緒に居ていただけませんか」
「う、うん!」
キスが出来ず少しだけ不満そうだった姫巫女だが、蒼に甘く微笑まれ、手を出されたことによって、機嫌が一気に治った。
そして蒼と姫巫女はお互いに手を繋ぎ、会場を後にしたのだった。



