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「…クソ」
姫巫女の横で武が悔しそうに俯いている。
この武の様子からわかるように武は準決勝で琥珀に僅差で負けていた。
準決勝が終わり、次の実戦、つまり決勝が始まるまで少し時間が空く。
その時間は負けた私と武が姫巫女の両隣に立ち、姫巫女の護衛をしていた。
「武くん。そんなに落ち込まないで。すごい実戦だったよ?決勝戦を見ているみたいだったし、武くんだって負けてなかったよ?」
「…ありがとうございます。姫巫女様」
ずっと俯いている武を姫巫女が心配そうに何とか慰めようとしているが、武には全く響いておらず、先ほどからずっとこんな様子だ。
まあ、あれだけ意気込んでいたから負けると悔しいよね。
私との決勝も叶わなかった訳だし。
「わ、私からの…キ、キスはなくなっちゃったけど武くんの為なら私なんだってやるよ。だから元気出して?勝ちにこだわる必要はないんじゃないかな」
〝キス〟の部分で少しだけ恥ずかしそうにしていた姫巫女は誰が見ても愛らしいが、武はそんな姫巫女を見ようともしない。
それどころかまた「…ありがとうございます。姫巫女様」と言っていた。
今の武は「…ありがとうございます。姫巫女」botだ。
私も「どんまい。来年があるよ」くらいは言ってあげたいが、姫巫女を挟んでまで言おうとは思わない。
どんな形であれ姫巫女と関わりたくない。
「…紅」
「ん?」
そう思っていたのに武が姫巫女越しに話しかけてきた。
姫巫女の視線が自然と私に向けられる。
「…来年は絶対決勝だ」
姫巫女に何を言われても同じようなことしか繰り返さなかった武が顔を上げて力強く私を見つめる。
来年は私たちが最上級生。
四神家の次期当主は私と武だけになる。
だからこそ、準決勝で負けることはお互いが相手ではない限りもう許されず、決勝へいくことは必須になるはずだ。
「そうだね。絶対決勝だね。そこで本気でやろう」
「おう。来年こそ全部勝つ」
「うん」
まだまだ悔しそうな武だが、もう俯いてはいない。
来年へのモチベーションが武の顔を上げさせたようだ。



