あくまでも本気でやったことを武に見せつけなくては。
自分を囲む炎以外にも同じような炎を作り上げ、私はそのいくつもの炎の中に走りながら、入ったり、出たりを繰り返す。
蒼から見ればどの炎に私が潜んでいるのか、判断が難しいはずだ。
「なかなか面白い無茶をするんだね」
少しだけ余裕のなさそうな蒼の声が聞こえる。
長い付き合いだから〝余裕がなさそう〟と思っただけで、普通の人だと気づかない程度の蒼の感情だ。
蒼から見ればこの程度のことはやはり無茶になるようだ。
能力を出し続けることは能力者にとって大きな負担になる。
いくつもの蒼の風に消されない炎を出し続けていることは相当力がいることなのだ。
私だから余裕を持ってできている。
もちろん周りからは面白い〝無茶〟をしているように見せているが。
私は仕上げといった感じで最大出力で私対蒼の会場を炎で囲み、周りからも見えないようにする。
これなら炎の中で何が起きているかわからない。
つまり武は実戦内容を見られない。
「暑いでしょ!」
私は炎の中から蒼に声をかけてみる。
「…暑いね。燃えてしまいそうだ」
私に答える蒼は全てが炎の世界で1人、汗をかきながら苦しそうに笑っていた。
蒼に勝つつもりなら、このまま蒼の体力を削って、チョーカーを壊すのが1番いいだろう。
だが、それは私が望んでいない終わり方だ。
私は蒼の体力が削られてなくなる前に炎の中を走りながら、蒼に近づいた。
「…っ!」
急に炎の中から現れた私に蒼が驚いた表情を浮かべる。
しかしまだ体力に余裕のある蒼は咄嗟に反撃の風を起こした。
先ほどまでの私ならそれさえもものともせず、炎に包まれたまま、蒼に飛び込み、チョーカーを壊していただろう。
だが、ここで私はわざとガス欠のフリをした。
「…くっ」
私を守るように燃え盛っていた炎や会場を覆っていた炎が嘘のように全部消える。
そして炎がなくなった丸腰の私に蒼の咄嗟の風が直撃した。
強いに風に飛ばされて、受け身も取れぬままドンっ!と床に背中から落ちる。
その衝撃で私のチョーカーはパリンッと音を立てて壊れた。



