朱にこんな顔をされては撫でることを辞めるなんてことはできない。
なので私はどこか気持ちよさそうにしている朱の頭をもう一度撫でた。
「おい。こんなところで2人だけの世界になるなよ」
そんな私たちをずっと隣で見ていた武が呆れたように口を開く。
「そもそも実戦を見ろ。次の実戦相手になるかもしれないんだぞ?」
「…チッ。邪魔だな」
「何か言ったか?」
「いえ、何も言ってません。武さんの言う通りです」
一瞬だけ心底嫌そうに舌打ちをした朱が目に入った気がしたが気のせいだろう。
現に今はいつもの愛嬌のある笑顔を浮かべている。
目は笑っていないが。
「…まぁいい。紅を倒す前にまずは朱、お前を倒すから。ほんの力調整にな」
「先輩なんですからお手柔らかにお願いします」
好戦的に笑う武と愛らしく微笑む朱が当たるのは順当に行けば準々決勝だ。
2人とも実力は申し分ないが、経験の多さ、水と火の相性、今までの2人の実戦をここで見ていた感じからおそらく武が勝つだろう。
朱にはいろいろと武が悪すぎる。
1年生No. 1は朱だろうが、学校一ではないということだ。
その後、2人は順当に実戦を勝ち上がり、準々決勝で予想通り当たることになった。
試合結果はやはり朱の負け。
最初こそ朱も健闘して武と互角にやり合っていたが、終盤には体力が切れたのか、武に押し負けてしまっていた。
「兄さん…」
武との実戦が終わると朱が落ち込んだ様子で私のところへやって来た。
「朱…。よく頑張ったよ。一年生であの実力はさすがだよ。強かったよ」
「…」
何とか励まそうとするが、朱は下を向いたまま顔を上げようとしない。
相当悔しかったみたいだ。
「…僕頑張った?」
「頑張った!頑張った!」
「強かった?」
「うん!強かった!」
「今日は辛いから兄さんにいっぱい甘えたいな」
「うんうん!甘え…え?」
何とか落ち込んでいる朱を励ましたくて声をかけ続けていると朱から衝撃の発言が飛び出してきた。
あ、甘えたい?
アナタもう高校生ですよ?
あ、甘える?何するの?
そもそも弟ならいいけど、アナタは赤の他人でしかも私のことが好きで、それで…
「慰めて?」
「わかりました。兄さんに任せなさい」
寂しそうな顔でこちらの顔を覗き込まれてはもう拒否なんてできない。
私の兄心?が刺激されてしまい、朱のお願いを承諾してしまった。
「ありがとう!じゃあ…」
「だけどここは公衆の面前です。TPOを弁えて後でゆっくり甘えてください」
「…はーい」
嬉しそうな朱にいつもの冷静なポーカーフェイスで対応すると、朱は残念そうにだが、それを了承していた。
全く可愛らしい弟だ。
好き。



