「…完膚なきまでに俺を叩き潰すんでしょ」
〝忘れていた〟という事実から話題を変えようと今、思い出したあの時の武の言葉を私は口にする。
すると武はニヤリと笑った。
「ああ。去年の俺より遥かに強くなったからな。今年こそお前に本気を出させてその上で完膚なきまでに叩き潰す」
「俺たちがやるなら決勝戦だね」
「そうだ!だから待ってろよ!紅!」
ビシッと私を指差す武の向こう側、琥珀の視線が私とぶつかる。
「武」
そして琥珀はその場でいつもの無表情のまま武に話しかけてきた。
「決勝に行く前に準決で俺との実戦があることはわかっているよな?」
「?そうだな?だから何だよ?」
「…はぁ」
相変わらず無表情な琥珀から伝わってくる感情は呆れ。
どうも目の前の武の様子に呆れているようだ。
自分は眼中にないのか、と。
「武はダメダメだねぇ。そんなんじゃ琥珀には勝てないし、俺にも去年同様勝てないね」
首を傾げている武におかしそうにダメ出しを始めたのは姫巫女と話していたはずの蒼だ。
「去年は経験値の差だけで蒼に負けたけど今年は違うから!俺強くなったから!」
「ふーん」
元気いっぱいの武に何を考えているのかわからない笑顔を蒼が向ける。
…棘のある言葉を頭の中で吐いてそう。
『脳筋』とか『脳みそ空っぽ』とか。
「…何でかな」
いつもの調子で話している私たちを見つめる姫巫女のこぼした言葉に私は気づかなかった。



