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任務と護衛で慌ただしく、あっという間に実戦大会当日がやってきた。
毎度のことながら今回も一年前と同じように武道場に用意された4つの会場で、トーナメント方式で実戦大会を行う。
生徒たちの待機場所は会場の上を囲うようにある2階の席だ。生徒たちは学年やクラスなど関係なく、好きな席を選び、自分の出番が来るまでそこで待機をする。
ただ今回の実戦大会には姫巫女がいる。
これは実力試しの場である以前に「姫巫女を守る勢力はこんなにも強いのですよ」と見せる場でもある。
当然、姫巫女への待遇が一般生徒と同じ訳がなく。
1階の実戦用の会場の空きスペースにちょっとした高台を作り、それはもう座り心地の良さそうな王様が座るんですか?と言いたくなるような大きな椅子にちょこんと姫巫女は座らされていた。
さすがに1人だけ対応が違い過ぎてちょっとだけ気まずそうだ。
姫巫女の守護者である私たちはそんな姫巫女を守るように両隣に立っていた。
姫巫女のお気に入りである蒼が姫巫女の左隣を。
その横に琥珀、右隣に武、その横に私、といった感じだ。
「わ、私だけ特別扱いすぎないかな…。何だか申し訳ないな…」
姫巫女が不安そうに蒼を見つめる。
可愛らしい大きな瞳はその不安からかどこかウルウルしていて、周りの生徒たちから感嘆の声が上がった。
「何て可憐なんだ…」
「俺たちの姫巫女様は本当にお優しいんだな」
「結果はどうであれ、少しでも姫巫女様にいいところを見せたい…」
ここ数ヶ月ですっかり姫巫女は学校のマドンナになってしまっていた。
彼女が少しでも何かを言えば、その場にいるみんなが彼女のその可憐な声を聞き逃さまいと耳を傾けるし、彼女の助けを求めるような声が聞こえようものなら我先にと手を差し伸べる。
姫巫女可愛いもんねぇ。
儚げで守りたいって思われても仕方ないよねぇ。
…大事に育てられた分、自分の考えこそが正しくてどこまでもまっすぐなところが私は苦手なんだけど。
「あ、蒼くん。私、1人でこんな大きな椅子に座るのちょっと恥ずかしいというか、さ、寂しいというか…」
くいっと隣に立っている蒼の服の袖を引っ張り、上目遣いで姫巫女が蒼のことを見つめる。
「なるほど…」
すると蒼は姫巫女の座る椅子の空いているスペースを見て、何か考え始めた。
どうせ、空いているスペースに蒼も座って、
『これなら1人じゃないから恥ずかしくないし、寂しくないね』
とか言うんでしょ。
見てるこっちが甘すぎて恥ずかしくなる場面を1度目の時この目できちんと見た。
心の中で『うっわ』って言った記憶がある。
もちろん表向きは平静を装っていたが。



