「お、たい焼き」
私たちが歩く先にたまたま見えたたい焼き屋に興味の視線を武が向ける。
「腹減った」
そしてその視線は物欲しげなものへと変わっていた。
そのまま武は私へ視線を向ける。
「な?」
「そうだね」
「食べたくね?」
「まぁ、確かに」
今日は授業を受けてからの任務でバタバタしていたので、昼食を食べているとはいえ、私も空腹だ。
今の今まで何か食べたいと思っていた訳ではないが、たい焼き屋を見て、私も武と同じように「たい焼き」を食べたくなってしまった。
「よし!じゃあ決まりだな!たい焼き食べながら帰ろうぜ!」
「うん!」
嬉しそうに笑う武に私も釣られて笑う。
それから私たちはたい焼き屋に着くと、私がこしあん、武がカスタードのたい焼きを買った。
「んん!んま!」
口いっぱいにたい焼きを頬張って、満足そうに武が私の横で笑っている。
姫巫女が現れても、私と武の関係は何も変わっていない。
願わくばこのまま何も変わらず一緒に笑い合っていたい。
「ん。美味し…」
たい焼きを味わいながら何となく周りを見ると、私たちと同じような学生の姿が目に入ってきた。
私たちと同じようにたい焼きを食べている3人組の女子高生。
ふざけ合いながら歩いている4人組の男子校生。
手を恥ずかしそうに繋いでいる女子高生と男子校生。
きっと私たちも今はこの〝普通〟の景色の中の一つなのだろう。
先ほどまで血生臭い任務をしていたとは思えないほどに。
もし、私が普通の人間だったらこんな風な穏やかな日常を何も知らずに過ごしていたのだろうか。
自分の性別を男だと偽らずに女として自由に生きていけたのだろうか。



