朱が紅のことを大切に思っていて大好きなように、紅も朱に対して同じ感情があるはずだ。

それなのにそれが正月以来無理に隠しているように見える。


そしてただでさえ辛そうな紅の周りは今、あまり穏やかではなかった。


先日行われた由衣の歓迎会。
そこで由衣は紅に誤ってリンゴジュースをかけてしまったのだ。

それが原因で紅は由衣のことを快く思えなくなっているようで、そのことが学校中に知れ渡っていた。



「…」



正直、あんなにも絶対的だった紅の評判は落ちつつある。
ここにいる能力者たちは皆、由衣の味方だ。
由衣を害するなら例えあの紅であっても許さないだろう。

だから事が大きくなる前に何とかしてやりたいんだが。

何故、紅が由衣をあんなことだけで快く思えないのかわからない。
由衣はあんなにも明るく誰にでも分け隔てなく接することができるいい人なのに。



「…紅は由衣が嫌いか」

「…え」



俺に予想外の質問をされたのか、紅が驚いたような声を出す。



「噂になっているぞ。お前が由衣を嫌っていると」

「…」



紅からスッと表情が消える。
ああやって表情を消す時は決まって、自分を殺している時だ。
思ってもいないことを言う為の顔があれだ。



「嫌っていないよ」

「その表情は俺には逆効果だ。何年一緒にいると思っているんだ」

「…」



紅の言葉を俺はすぐに否定する。
すると紅は驚いたように目を見開いた後、今度はまた辛そうに黙った。