この状況を疑問に思っていると琥珀が私に近づいてきた。
そしてそのまま私の頬を両手で掴んだ。



「可愛いがすぎるぞ」

「へ」



ナニイッテイルノ?



訳がわからず固まったままの私の耳元に琥珀が自分の口を寄せる。



「…だから可愛いがすぎるって言っているだろう。人の目が多い時は特に注意しろよ。お前のことをそういう目で見る男が増える」

「は!?」




私は琥珀から低い声で言われたことに思わず声を上げた。


嘘!?
それってつまり私が女の子のようになっていたってことだよね!?
あ、危な!
朱が可愛くて愛おしくてついつい表情筋が緩んじゃったよ!



「…っ」



ただでさえ最近性別を偽ることに限界を感じ始めている。
中学生までは女の子のような男の子はそこそこいたが、もうこの歳になるとそんな人は私と朱くらいだ。


だからより一層気を引き締めないといけないのに。



「ごめん…」

「いや、別に謝って欲しい訳じゃない。ただ、お前が心配なだけで…」

「離してください」



顔を掴まれたまま琥珀と話しているとそんな琥珀の腕をすごく不満そうに朱が掴んだ。

私には見せない冷たい表情だ。



「…」



琥珀が私から視線を外して、朱を黙ってじっと見つめる。



「…何ですか」

「別に」



朱に睨まれてもいつも通りの無表情を貫いている琥珀は朱と何故か見つめ合った後に私の顔から手を離した。



「兄さん大丈夫?不躾に顔を掴まれて不快だったよね?今僕が拭いてあげるからね」

「え、いや、大丈夫だけど…」



朱が心配そうに私を見つめながら、自身の制服のポケットから綺麗な白色のハンカチを出す。
そして朱はそれで私の顔を優しく、念入りに拭き始めた。

断ろうとしたが、その隙がまるでなかった。


そんな私たちを見て武は「出た、朱の過保護」と言って盛大に引いていた。