2度目の人生で世界を救おうとする話。後編






「姉さん…。ねぇ、姉さんのこと名前で呼びたい」



泣きながらもおずおずと私を見る朱があまりにも愛おしくて思わず頬が緩む。



「もちろん。私たちもう姉と弟じゃないんだから」



それから私はその緩んだ頬のまま朱の願いに頷いた。

私はそもそも朱と血が繋がっていない。
葉月の人間でもない。私には家族はいない。
けれど朱とはきっと家族以上の関係を築くことができる。



「…こう、紅。ああ、紅」



嬉しそうに、噛み締めるように、何度も何度も私の名前を愛おしそうに朱が呼ぶ。



「…紅、これからもずっと一緒にいよう。だから僕と家族になって欲しい」

「…え」



愛おしげに私を見つめる朱の言葉に私は目を見開く。
私たちはもう家族ではない。
それでも家族になるということは…。



「結婚するの?私たち?」

「そう。ダメ?」



私に甘えるような視線を向ける朱にじんわりと心の奥から暖かいものが込み上がってくる。
それから私の瞳から嬉しさで涙が溢れた。



「…ダ、ダメなわけ、ない」



何とか涙を堪えながら、私は朱に応える。

2度目の私のこれからの人生で、私はもう決して独りになることはない。
兄のような存在の琥珀がいて、共に戦ってくれる武がいて、私を守ると言った蒼がいる。
世界最強の大厄災、龍も私の味方だ。
そんな最強の私を誰が独りにできるだろうか。

そして何より私には新しい家族、朱がいる。



「…嬉しい。紅、もう絶対離さないからね」

「うん、私も」



嬉しそうに朱が私を抱きしめる。
私も朱の胸に自身の体を預けて、朱の背中へと手を回した。

ひらりと美しい色合いの蝶が舞い、私の肩へと止まる。
独特な見たことあるようなその美しい蝶に私は思った。
神様なのではないか、と。



『神様、私、今度こそ幸せになるよ』



心の中で神様に何となく、声をかけてみる。
するとこの季節にしては珍しく、涼しく心地の良い風がふわりと私たちの間に吹いた。




【2度目の人生で世界を救おうとする話。】end.