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「新しい法案ですが、妖側への規制が多すぎます。あくまで妖と人間は対等な存在であるべきです。ですからこの法案は妖側へは提出しません。変更してください」
長いテーブルを囲むように椅子に座り、こちらを様々な様子で見る能力者上層部の人たちに、私は小娘だと舐められないように肩より下まで伸びた髪をまとめて、きちんとしたスーツ姿で今日も静かに訴える。
私は今、妖と人間が共に生きる為の法案の会議に妖側として参加し、いつものようにクソ法案に異議を唱えていた。
シナリオの歪みを完全に修正したあの日から半年。
能力者側からすると大厄災、龍の再封印に歴史上初めて失敗したあの日からもう半年が経った。
あの日、能力者界は絶望していた。
龍の完全復活、それは妖の時代の幕開けを意味していたからだ。
龍は世界最強の存在だ。完全復活した龍を止めることは、能力者がいくら束になっても不可能に近い。
姫巫女が不在である今、龍を止められる者は誰もいなかった。
なので私は提案した。どうすることもできず、ただ人間の時代の終わりを待つしかない状況の上層部に半ば脅す形で妖との共存を。
そして今がある。
「妖側は人間との共存に協力してもいいと考えている。ただし、そちらがこちらの脅威となるのならその考えは当然なくなるものとする。これが私が最初に龍から預かった言葉です。忘れたとは言わせませんよ?」
私の言葉に誰も口を開かないので、私はまた今度は強く念を押すように、龍の言葉を口にする。
これが私が脅す形で能力者上層部に言った言葉だ。
私のこの言葉を聞いた時、それはそれはもう上層部の者たちの中で大揉めし、意見が割れ、大変だったが、それでも人間にはもう妖との共存しか、平和に生きる道がなく、それを選ばざるを得なかった。
だが、それでも相変わらず、上層部の考え方は妖に厳しい。
「…紅。言いたいことはわかった。だけど妖と人間は根本的に力の差があるんだ。その力の差から生まれる危険から我々人間が自身の身を守る為にもある程度の規制は仕方ないものだと思って欲しい。これ以上の譲歩は難しいよ」
誰も口を開かないところで口を開いたのは能力者界のトップ、麟太郎様だ。
麟太郎様は難しそうな表情で困ったようにこちらを見ていた。



