「龍!やめて!」
仕方がないので私は蒼に囚われたまま、必死に龍へとそう訴えかけた。
「…俺じゃない」
「え?」
「あの炎は俺じゃない」
龍が私にゆるゆると首を振る。
龍ではないのなら、この場で炎の能力を使える者は1人しかいない。
「…朱?」
信じられないと思いながらも、朱の方へと視線を向けると、無表情に燃え盛る炎を見つめる朱の姿がそこにはあった。
「やめて!朱!ねぇ!」
私は今度は龍ではなく、朱の方へと必死に叫ぶ。
だが、姫巫女を囲む炎が消える気配はない。
「いやぁ!熱い!熱い!わ、私はヒロインよ!こ、こんなことあり得ない!」
もがきながらも姫巫女は何とかその炎から逃れようとするが、炎が姫巫女を逃すことはない。
「ねぇ!助けて!蒼くん!私の王子様!いや、もう誰だっていい!琥珀くん!武くん!朱くん!ヒロインの私を助けてよぉぉぉお!!!!」
燃え盛る炎の中で、酷く顔を歪め、姫巫女が蒼、琥珀、武、朱の順番に視線を向け、必死に手を伸ばす。
しかし名前を呼ばれた彼らはその場から動こうとはしなかった。
「…お前が何をしてきたのか俺は知っているんだ。そんなお前を助けるわけないだろ」
最初に口を開いたのは武だ。
武はそう言い捨てて、恨めしそうに姫巫女を睨んだ。
「紅を陥れたのもお前だろ」
次に口を開いた琥珀もいつもと変わらない無表情に見えるが、その瞳には怒りが見える。
「…僕から姉さんを奪ったお前を僕はずっとこうしたかった」
それから朱も愛らしいいつもの朱からは想像できないほど、冷たく姫巫女を見ていた。



