side紅
「…こ、う」
蒼の震える声が聞こえる。
いくら待っても、覚悟していた痛みが来ないので、不思議に思い、そっと瞼を開けると、そこには泣きながら私を見つめる蒼がいた。
そしてその瞳にはしっかりと光があり、先ほどまでの人形のようなものではなかった。
…蒼が正気を取り戻した?
「ご、めん、ぼく、また…」
大粒の涙を流しながら、蒼は短剣をその場に置いて、覆い被さる形で私を抱きしめる。
私を抱きしめる蒼の腕は声と同じで震えており、辛そうだった。
「…大丈夫だよ、蒼」
泣き続ける蒼を私も抱きしめ、そう優しく声をかける。
神様が間に合ったのだ。
これで私が死ぬ運命も、この世界が滅びるシナリオももうなくなったはずだ。
「い、いやぁぁああっ!!」
突然静かになったこの場に誰かの絶叫する声が響く。
この声は…。
蒼に覆い被さられたまま、何とか声の方へと視線を向けると、そこには炎に囲まれて、苦しそうに叫んでいる姫巫女の姿があった。
「…っ」
あまりにも酷く残酷な光景に言葉を失う。
あの炎を作っているのは、先ほどまで姫巫女に対して怒りを露わにしていた龍だろうか。
それならば早く龍を止めなければ。
私は確かに姫巫女のことが嫌いだが、能力で焼き殺されて欲しいとは思わない。
「…蒼、ちょっと」
蒼から離れて、今すぐに龍を止めに行こうとしたが、それは何故か私を強く抱きしめ、離そうとはしない蒼によって叶わなかった。
こんな時に嘘でしょ!?
先ほどの戦いで満身創痍な私では、自力で蒼の腕の中から出ることさえもできない。



