2度目の人生で世界を救おうとする話。後編





side紅




「…こ、う」



蒼の震える声が聞こえる。
いくら待っても、覚悟していた痛みが来ないので、不思議に思い、そっと瞼を開けると、そこには泣きながら私を見つめる蒼がいた。
そしてその瞳にはしっかりと光があり、先ほどまでの人形のようなものではなかった。

…蒼が正気を取り戻した?



「ご、めん、ぼく、また…」



大粒の涙を流しながら、蒼は短剣をその場に置いて、覆い被さる形で私を抱きしめる。
私を抱きしめる蒼の腕は声と同じで震えており、辛そうだった。



「…大丈夫だよ、蒼」



泣き続ける蒼を私も抱きしめ、そう優しく声をかける。

神様が間に合ったのだ。
これで私が死ぬ運命も、この世界が滅びるシナリオももうなくなったはずだ。



「い、いやぁぁああっ!!」



突然静かになったこの場に誰かの絶叫する声が響く。

この声は…。

蒼に覆い被さられたまま、何とか声の方へと視線を向けると、そこには炎に囲まれて、苦しそうに叫んでいる姫巫女の姿があった。



「…っ」



あまりにも酷く残酷な光景に言葉を失う。

あの炎を作っているのは、先ほどまで姫巫女に対して怒りを露わにしていた龍だろうか。
それならば早く龍を止めなければ。

私は確かに姫巫女のことが嫌いだが、能力で焼き殺されて欲しいとは思わない。



「…蒼、ちょっと」



蒼から離れて、今すぐに龍を止めに行こうとしたが、それは何故か私を強く抱きしめ、離そうとはしない蒼によって叶わなかった。

こんな時に嘘でしょ!?

先ほどの戦いで満身創痍な私では、自力で蒼の腕の中から出ることさえもできない。