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「彼女…いえ、由衣が望む展開になるように私はアナタの世界に介入しました。由衣が無条件に誰からも愛されるようになったり、都合よくシナリオが展開されるようになったり…。私は由衣を愛しています。ですから、私の全てを使い、そうしました」
悲壮感を漂わせ、話し終えた神に私は表情を歪める。
私がその介入に気づかなかった、または対応できなかったのは、文字通り今目の前にいる神が姫巫女に全てを使ったからだ。
命を削り、禁忌を破り、私よりも強い力で姫巫女の願いを叶えた。
だが、それはもし誰かに気づかれてしまえば、自身の消滅を意味する、最悪の行為だ。
「…アナタ、消えますよ?」
「いいのです。消えてもいいから由衣を幸せにしたかった…」
眉間にしわを寄せ、私と同じ立場である神を見れば、神はどこか満足げに笑っていた。
「由衣が幸せになれるのなら私は喜んで消えます。由衣の幸せを奪う行為はしたくありません」
「…そうですか」
神の言動に私は深いため息を漏らす。
何と自分勝手な神なのだろうか。姫巫女への愛で周りがまるで見えていない。
「アナタが本当に姫巫女の幸せを願うのなら姫巫女をあのまま放置するべきではありません」
「え?」
「あの娘はいずれ、望みを叶えるでしょう。ですが、それは彼女が本当に望んだ形をしているのでしょうか?神の力によって思い通りにできる世界で生きることが本当に彼女の幸せなのですか?姫巫女は誰かの幸せを踏みにじってまで、幸せになりたい子だったのですか?ヒロインとはそういう存在でしたか?」
「…っ」
私の言葉を聞き、今度は神が表情を歪める。
この神もきっと今の姫巫女の現状を知っていたのだ。
彼女が私の世界でヒロインではなく、まるで悪役のようになってしまっていたことを。
姫巫女がなりたいのは悪役ではない。
ヒロインなのだ。
今の状況では間違いなくその願いは叶わない。



