『あと少しだったというのに!始まってしまいましたか!』
突然聞こえた神様の声はいつも聞いている落ち着きのある悪戯っ子のような声ではない。
まさにこの状況に焦り、慌てているような声だ。
「神様!どういうこと!?今、説明出来る!?」
『ええ!その為に今話しかけているのですから!もちろん龍、アナタにも!』
神様側の状況も全く理解できないので問かければ、神様が私に当たり前だと、勢いよく応えてくれた。
今日はきちんと何かを説明できるようだ。
『何故、シナリオが歪み、何故、その歪みを神である私でさえも修正できないのか。その謎を私はずっと追っていました。そしてある仮説が浮かんだのです』
「仮説?」
『はい。私が考えた仮説とはこうです。シナリオの歪みには別の世界の神の力が働いている、だからこそ、私の手には負えないシナリオの歪みができてしまった、というものです。以前、紅には説明しましたが、世界とは無数にあり、その世界の数だけ神は存在します。その他の世界の神が私の世界のシナリオへと介入してきたのです』
「そんなこと可能なの?」
『不可能に近いです。あくまで私たちは補助的な存在。シナリオに直接手は出せない。ですか、人になら手を出せる。今の紅や龍のように』
いつになく真剣な神様の説明に私はそこで息を呑む。
神様が言おうとしていることがわかってしまったかもしれないからだ。
「…シナリオの歪みは姫巫女を中心に起きているって神様は言っていたよね?つまり姫巫女はその他の世界の神様の介入を受けているの?例えば私や龍みたいに記憶が残っていたり、神様からの助言があったり」
『その可能性が非常に高いです。私もその可能性に気がついてからずっと姫巫女を探っていました。そして姫巫女から僅かですが、他の世界の神の気配を感じました。私は今、その神を探し、これからその神と交渉しようとしていたのです。これ以上の介入はやめなさい、と』
神様の話のスケールの大きさに私は言葉を失う。
神様という存在がいる、というだけでとんでもない話なのにそこに別世界も絡み、さらに姫巫女も2度目の可能性があると考えられるともう何が何だかわからない。
いろいろな要素がありすぎて理解するのに時間がかかる。
『紅、龍、アナタたちに頼みたいのは時間稼ぎです。今のシナリオの歪みは神の介入を受けた姫巫女によるものです。それを私は今から無効化できるようにします。無効化してしまえばシナリオは元に戻り、世界は滅びません。逆に言えば無効化ができるまでに紅が死んでしまえば、世界は朱の手によって滅ぼされます。ですから2人ともどうか、耐えてください』
「わかったよ、神様」
「…ああ、言われなくても紅は死なせない」
神様の真剣な願いに私と龍は力強く頷く。
私たちの返事を聞いた神様は「頼みましたよ」とだけ言って、それ以上は私たちに話しかけてこなかった。
おそらく、その交渉とやらに行ったのだろう。



