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龍と共に夜空を飛び続けること数時間。
私はやっと懐かしの聖家に辿り着き、ついに会いたかったある人物に会うことができていた。
「あやこと申します。みなさんからはあや婆と呼ばれています。よろしくお願いしますね、紅さん」
私よりも小さな優しげなおばあちゃんのような見た目の妖が私ににこやかに笑う。
彼女の名前はあやこ。みんなからあや婆と呼ばれ、親しまれているこの聖家の管理人だ。
私はずっとあや婆に会いたかった。
あや婆の優しさのおかげで1度目の私はまた生きようと思えたからだ。私にとってあや婆は本当のおばあちゃんのような存在なのだ。
「…よろしくお願いします、あや婆」
「あら?あらあら」
何故かあや婆が私を見て驚いている。
どうしてあや婆は驚いているのだろうか。
疑問に思って首を傾げていた私だが、その疑問は隣にいた龍によって解消された。
「…紅、お前、何泣いているんだ」
「…え」
龍が無表情ながらも、どこか心配そうに私の目尻に触れて涙を拭き取る。
そこまでされて私はようやく自分が泣いていたことに気がついた。
私が突然泣き出したのであや婆も驚いたみたいだ。
「…あ、ごめん」
状況をやっと理解した私は涙声でとりあえず謝る。
ここ最近ずっと姫巫女のこともあり、いろいろと気を張っていたので、多分緊張の糸が切れたのだ。
それに2度目だからと平気なフリをしていたが、生徒たちからの心ない言葉に私はずっと不快感を覚えていた。
それがここに来て解放されたのだ。
ここではもうあんな思いをせずに済む。気を張り続ける必要もない。
ここは私にとっての安息地なのだ。
ほろほろと涙を流し続ける私に龍は「謝って欲しい訳でない。気が済むまで泣けばいい」と言い、自身の懐からハンカチを出し、私に渡した。
「そうです。泣くことはとてもいいことなのですよ。いろいろと大変だったのですね。もう大丈夫ですよ」
龍から受け取ったハンカチで涙を拭う私をあや婆が1度目と同じように優しく微笑んで見つめてくれる。
その優しい眼差しをまたとても懐かしく感じ、私の心は暖かい気持ちでいっぱいになった。



