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帰省といってもあの家に私は長居したくない。
なので私は必要最低限の話をしてさっさと帰る段取りで実家に向かった。
一泊だってしないつもりだ。
父と話してさっさと帰る。
「だから朱は来なくても良かったんだけど」
「何で?僕と兄さんは一緒じゃないとダメでしょ?」
葉月家から呼んだ迎えの車の中で私が苦笑いを浮かべると隣に座っていた朱が不思議そうにそんな私を見つめる。
朱は本当にどこへでも一緒に行きたがるな。
「父様と話す時は席を外してよ?」
「えぇー。何で?いいじゃん、僕がいても」
「ダメ。次期当主命令だからね」
「…酷い。そこで次期当主命令するなんて」
どこへでも着いて来ようとする朱の行動に制限をかければ、朱は今度は不満げに頬を膨らませていた。
すんごく可愛いが私は惑わされない。
心を強く、気丈に振る舞う。これが姉だよ。
そんな私に「ねぇ、本当にダメ?」と朱が可愛く言ってきたが、私は心を鬼にしてノーを突きつけた。
めちゃくちゃ心がぐらぐらに揺れていたが精一杯我慢した。
恐ろしい男だ。
私の弱さをよくわかっている。
朱といろいろな話をしていると、窓の外に大変ご立派なお屋敷が見えてきた。
あれこそが葉月家だ。
葉月家に着くと私は朱に別れを告げて父の書斎へ向かった。
数日前からアポを取っていたので父は書斎にいるはずだ。
私はこれから始まる大事な交渉に気をしっかりと引き締めた。
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父の書斎には本が多い。
どれも葉月家の歴史のある大事な資料で火の能力の起源や過去の能力者たちの歴史、火の能力の可能性など様々なものがある。
ここの書物の内容を大体知っているのは幼少期にプリキュアではなく、ここの本たちの内容を叩き込まれたからだ。
本当に悲しい幼少期である。
父は書斎の奥にある席で何か書類に目を通していた。
「紅、来たか。そこに座れ」
父に勧められて手前のソファに腰を下ろす。
そこには何故か大量の茶菓子が置いてあった。
めっちゃストックしてるじゃん。
疲れた時用かな?



