side蒼
紅が隣で笑っている。
紅が隣で喋っている。
紅が息をしている。
紅が生きている。
心臓が動いている。
ただそれだけ。
ただそれだけでいい。
だけど欲を言うのならこの気持ちを君に伝えたい。
そして同じ想いだったらどれほど嬉しいか。
紅が生きているだけでも奇跡なのにその先を願わずにはいられない。
じっと紅を見つめる僕を紅は不思議そうに見つめている。
どうしてそんな目で見るの?と顔に書いてある。
…好きだからだよ。
愛しているからだよ。
そう伝えたいけれどきっと紅は僕と同じ気持ちじゃない。
この想いは紅を困らせるだけ。
だから僕は言いたくても言えない。
それなのに。
『こ、こんなの初めてなんです!アナタのことが知りたいんです!性別とか関係ないです!好きなんです!』
今日、あろうことか紅にいきなり告白していた男のことを思い出し、嫌な気分になる。
僕でさえも言えない気持ちを。
今日会ったばかりの男が簡単に口にした。
それがどれだけ気分の悪いものだったか。
あの時の男と同じように紅の手を取って両手で包む。
すると紅はますます困惑した顔で僕を見た。
「蒼?どうしたの?」
「…いや」
僕はどうしたいのだろう。
あの時のことが気に入らなくて紅の手を握ってみたが、その先のことまでは何も考えていない。



