全てから愛されるために生まれてきた子。
姫巫女はそういう子だった。
ずっと女であることを隠し、男として生きてきた私には姫巫女はあまりにも眩しすぎた。
この世に生を享けて16年。
たくさんのことを我慢して、それでも立派である自分に誇りを持っていた。
私は葉月家の次期当主であり、姫巫女を守る守護者に選ばれた人間だ。
誰でもなれるものではない。常にそう思って現状に満足していた。
いや、実際はそうしなければきっと耐えられなかった。
だから普通に愛されて女の子として生きてきた同世代の姫巫女を見て自分という存在に違和感を感じ始めた。
どこかで〝女の子でありたい〟と願っていた自分に気付かされてしまった。
私は何もかもが私と正反対だった姫巫女が嫌いだった。
だからといって姫巫女を守る守護者の仕事を放棄することはなかった。
きちんと役目を果たしていた。
しかし何故か私は周りから忌み嫌われ始め、やがて独りになってしまった。
独りになった私の結末は?
独りになった私を拾ってくれた大厄災、龍のために私は世界の悪役として戦った。
今まで味方だった能力者や人間をたくさん殺した。
私を捨てた人間なんてどうでもよかった。
グサリと、蒼が短剣で私の心臓を刺す。
かつての仲間が相手でも蒼の一撃には迷いなんてない。
深く突き刺さったそれはいくら最強と言われている私でも致命傷と言えるものだった。
痛い。
肌を貫いて深くまで刺さった短剣は未だに私を貫いたまま。
激痛が私を襲い、訳の分からない熱も感じる。
ああ、私は死ぬのか。
そう思うには十分な痛みだった。
蒼は何故か短剣を引き抜こうとしない。
朦朧とし始めた意識の中で私は短剣を握りしめて動かない蒼の顔を見た。
先程まで何の感情も感じさせかった冷たい顔が嘘かのように泣きそうな顔をして蒼が私を見つめていた。
何故、蒼がそんな顔をしているのかわからない。
蒼が望んで私を殺したのだろう。
どうしてそんな顔をする必要があるのか。
「…こ、う」
絞り出すように蒼から出された言葉は私の名前で。
もう何も言えない私はそんな蒼に小さく笑うことしかできなかった。