また「からかうな。」って笑ってくれるかな。
ちょっとは心揺れてくれるかな。

そう思ったけど、先生は手帳に何か書き込みながら、あっさりと私の提案を否定しました。

「生徒にそんなことさせられるわけないだろ。」

「…何が問題ですか?」

「何もかもだ。」

何もかも。
それって、私と先生の関係、全てが問題ってことですか?

教師と教え子の立場だから?
私が未成年だから?
先生には奥さんがいるから?

それって、私が教え子じゃなければ解決出来る問題ですか?
先生が奥さんと別れたら、私にもチャンスはありますか?

結構、落ち込みました。
私は何も言えないまま、先生が手帳に文字を書き込んでいくのを黙って見ていました。

私の名前と家庭環境。
本人の心情。特記事項。

先生がふと顔を上げて、私を見ました。
私は俯いたままだったけど、名前を呼ばれたので顔を上げました。

「どうした?大丈夫か?」

「ここに、」

「ん?」

「名前の横に、一番可愛いって書いて。」

先生の手帳のページを指差しながら言いました。
先生は笑いながら、私の頭にぽんって手の平を置いて、言いました。

「これ落としちゃったら大変だろ。」