その翌年、僕は数年かけて準備をしてきた会社の設立を行った。

一年目はかなり苦労したがそれでもサラリーマンの時に比べれば収入は上がった。

三年目になると収入も安定し、ある程度豊かな暮らしができた。

実を言うと僕は彼女との婚約を両親に申し込む際、彼女の専門学校で学んできたスキルを無駄にはしないと約束したのだ。

なので僕は彼女にお菓子を作ってそれを販売しようと提案した。

僕はOA機器の営業をしながら彼女の作るお菓子の宣伝もした。

初めはなかなか売れなかった。

しかし彼女の両親は僕が有言実行したことでより信頼をしてくれた。

営業先で広告を置いてくれないかとお願いをし自社のホームページにも広告を載せた。

思えば無謀な挑戦でもあったが、その時の僕にはそれしかできなかった。

しかし今では一戸建ての家だって持つことができた。

彼女がお菓子作りに専念できるよう台所にオーブンを取り付け、IHコンロとガスコンロの両方も揃えた。

僕は今まで家庭と仕事に対して責任感を持ち続けた。

彼女のことを愛し子供のことも愛していた。

彼女は僕のことを理解してくれた。

僕の些細な表情や仕ぐさ、時には表に出て出ない感情や気持ちでさえも読み取ってくれた。

彼女はわがまま一つ言わず今まで僕と一緒にいてくれた。

我々はお互いを尊重しつつ相互理解に努めてきた。

まさに僕の理想ではあったが、彼女はどう感じていたかはわからない。

彼女の誕生日はいつも二人で出掛けた。

彼女が好きなレストランに行き彼女が欲しいものをプレゼントした。

僕の誕生日には彼女はご馳走を作ってくれた。

プレゼントも決して安くないものだった。

僕の仕事が忙しいことを考慮してくれた彼女の思いやりでもあった。

普段の生活が何よりの幸せだった。