「おいっ」

 いきなり怒鳴り声が聞こえた。

「えっ⁉」
「お前、わざとか? 恥をかいてまで俺の気を引きたいのか?」
「……えっ⁉ だ、誰?」

 女性の視線の先には、ぼんやりとした男性のシルエットしか見えていない。掛けていた眼鏡がこけた拍子に外れて、少し先まで飛んでしまった。

「「「「え⁉」」」」

 女性から放たれた一言に、様子を見守っていた周囲からは驚きの声が上がった。

 コツコツと威圧的な足音で女性の前までやってきて、片膝をついてしゃがみ目線を合わせる。男は一瞬目を見開いた後、なぜか口元が上がった。きっと周囲には気づかれないほどの変化だが、SPらしき男性は内心驚いている。

 周囲は、男の行動自体に驚いて声も出ない……。

 辺りには緊張感が漂っていた。

「俺を知らない? そんな訳ないだろう? このオフィスビルで働いてるよな?」
「は、はい。あの〜眼鏡が……」
「はあ⁉ 眼鏡?」
「こちらでしょうか?」

 SPらしき男性が、拾った眼鏡を差し出す。

「あっ、すみません。ありがとうございます」

 お礼を言いながら、女性は眼鏡を掛けた。

 次の瞬間ーー

「し、し、し、新城社長〜‼」

 女性の絶叫がエントランスに響き渡る。