「さすが直くん。3年生のほとんどを捕まえてたし、もう先輩がいなくてもしっかりやっていけるね」


この練習が最後。


そう思ったら自然とそんな励ましの言葉が浮かんできて、流れるように口から出ていった。


卒業して想いを伝えてしまったら、もうここには来られない。


直くんを応援することはできない。


バレンタインのとき、メッセージカードにもありきたりな言葉しか並べられなかった。


だから、今のうちにいっぱい。自分の言葉で。


悲しみが込み上げてくるのを堪えながら、贈ったのだけど……。


「聞きたくない」


苦しそうな声が聞こえた途端、直くんが大きく一歩近づいて―――。


「―――な、直くん。近い」

「知ってる」

「だったら……!」

「ダメ。これは先輩への嫌がらせなんだもん」


直くんに壁へと追いやられて、直くんの腕に囲われた今。


私の心臓は過去一の暴走っぷりで、息ができているか自分でもわからないくらいに苦しくなっている。


直くんが落ち込んでいるのがはっきりとわかるのに、そんなときでも自分の感情に素直な自分が恨めしい。


もっとも、落ち込んでいる理由がわからないから私には元気づけることもできないんだけど。