反射的にちゃんと逃げることに了承してしまった私がとった選択はというと。


「意外とバレないものなんだ……」


建物の陰からちらりと先方の様子を盗み見る。


先生や数人の後輩、こぞって捕まった同級生たちが団子になってるのがわりと鮮明に見えるのは、私が留置所からそこまで離れていない小さな物置の裏に身を潜めているから。


開始時からずっと。


灯台下暗しってやつを信じてみたらなんと最後まで生き残ってしまった。


まぁ、遠くに行くのがめん……きつそうだなって思ったからというのもあるんだけど。


手元にある愛用のストップウォッチが示す時間は19分30秒。つまり残り30秒。


これは逃げきれ―――。


「―――まどか先輩、捕まえた」


……ませんでした。


時計に気を取られていた私の背後から音もなく現れた直くんは、控えめな笑みで私のジャージの裾を控えめに摘まんでいる。


少し素早く動くだけで簡単に逃げられてしまいそうなそれは直くんにしては珍しい。


いつもの感じからすれば、手首とか肩とかをがっしり掴んで屈託のない笑顔を見せてくれそうなものなのに。


たったこれだけのことを気にして寂しいと思ってしまう私が変なのかもしれないけど。