憧れの先輩と食事に行くことになった。だけどどうしよう。先輩が妙な質感の、染め抜きしたような色の服を着て来た。笑ってもがっかりしてもだめだ。考え抜いた結果「備長炭みたいな服ですね」と微笑んだ。フラれた。



「禁酒ができない!」と片想い中の彼に話した、ら……。「じゃあ人参作戦でいこう。一ヶ月禁酒できたらデートしようか」わたしは本格的に禁酒することを決め、それは成功するだろうと確信した。



冷蔵庫に好きな人の写真を貼るとダイエット効果があるらしい。確かに彼からの視線を感じると、自然と食べる量が減っている気がする、けれど……。今日友人からもらったメレンゲケーキは、とても可愛らしく魅力的だ。……、……。一旦彼の写真に、愛用のアイマスクを貼り付けた。



「俺ピーマン好き」うん。「雨上がりの匂いも好きだな」うん、わたしも。「冬の朝の鼻がツンとなる感じも」うん、あとは?「狭い所」狭い所?「ベッドと壁の隙間で読書するのが好きかな」あなたの好きなものは、全部好きになりたい。でもあなたの奥さんを好きになるのは難しいかもしれない。



あの子が作ったお菓子を頬張りながら、彼は自分が持つ語彙力の全てを駆使して褒め称えている。それを聞きながら、お菓子作りなんてしたこともないわたしは、膝の上の拳を握り締めるしかない。あの子に渡した言葉を、ひとつくらいわたしにくれてもいいのに……。



引き出しの奥から錆びたプルタブが出てきた。「大きくなったら結婚しようね」と幼馴染みからもらったものだ。指輪のかわりにプルタブ、なんて。今考えると笑っちゃうな。幼い日の約束を指で弄びながら、クラス会の葉書に丸を付けた。



彼女とおれは付き合っていないけれど、一番仲が良い男はおれだと自負している、はずなのに。彼女ときたら誰彼構わず笑顔を振り撒く。頼むから、他の男たちに勘違いさせないでくれ。「くそ、おれ以外の男滅べ!」「ハーレム?サイテー」そういうことじゃないのに、おれの株が暴落した。



書きやすさを重視した何の変哲もない三色ボールペンを見て「色気のないペン使ってるね」と彼が言うから、わたしは恥ずかしくて堪らなかった。彼が桃色の包みを差し出したのは次の日のこと。中には大人っぽい綺麗なペンが入っていた。彼からの初めてのプレゼントを一生大事にしようと思った。



あの子が「誕生日プレゼントは一口チョコがいい」と言ったから、コンビニに走って買って来たというのに。あいつに高そうなチョコを貰っているのを見てしまったから、僕はポケットに入れたチョコをぎゅうと握り締めた。次第に溶けてどろどろになっていく感触は、僕の心とおんなじだと思った。



片想いをしている彼に「誕生日プレゼントは一口チョコがいい」とストレートにアピールしたというのに。彼はプレゼントどころか姿を見せてもくれなかった。誰かに高価な物を貰っても心は揺れ動かない。彼がいい。彼からなら、石ころだって嬉しいのに。悲しむ心が、石より硬くなるのを感じた。