深夜一時、庭の砂利を踏みしめる音が近付いてきたから耳をすました。深夜二時、遠ざかっていく砂利の音は未だ聞こえない。



こんな夢を見た。辛い雨が降り、人も木も建物も地面もどろどろに溶けていく。私はその中を逃げ惑い、新鮮な空気を探し回る。そんなものは、もうどこにもないだろう。粗末な扱いを受け続けた大地が牙を剥いたのだ。私たちはただ、許しが出るのを信じて待つしかないのだ。



こんな夢を見た。私はとある国のとある港町にある、甲冑を纏った騎士の亡霊が住まうと噂の古城を歩いている。長い廊下を進むと、確かにそこに騎士はいた。騎士は言う。「ようやく会えた」私は答える。「お会いしたかった、お兄様」どうしてそんなことをイタリア語で言えたのかは分からない。



目が痛み、視界には無数の黒点が映る。白目は茶色の染みが浮かび、視野が欠け始めたが、まさかそれが生後間もない私の左目に封印された悪魔が出てこようとしている合図だったとは……。慌てて眼科に駆け込み、最新鋭のレーザーを照射し、封印し直した。保険も適応された。最近の眼科は凄い。



木に打ち付けてあったお札が破られているのを見た。電話に雑音、テレビにノイズが走り、カラスが飛び回る。家宝の壺が割れ、行方不明だった兄が帰って来た。何か嫌なことが起きる前兆だと思って身構えた。あれから十年、全てを怪しみ、拒み生きてきた。私はいつまで身構えればいいのだろう。



友人に誘われパワースポットに行った日から、40度の熱が下がらない。薬も注射も点滴も効かず、打つ手なしで一週間が過ぎた頃、何の前触れもなく突然熱が下がった。そして気軽にパワースポットに行ったことを後悔した。私が一人暮らしではなかったことなんて、知りたくもなかった。



焚くと煙の中に死者の姿が現れるという反魂香について思い出したのは、彼の不在で泣き暮らしていた時だった。「会いたくなったら焚いて」と彼がくれた香を、私は信じていなかったけれど。「会いたくなるのが遅いよ」煙の中で彼が微笑むと、私は心から願った。香よどうか燃え尽きないで、と。