わたしの恋には香りがある。恋をするたび香水を変えているからだ。その香りを嗅ぐといつだって、あの日の恋を思い出す。ここ数年香水を変えていないのは、わたしの隣にずっときみがいるからだ。願わくはこの香りが、人生の香りになりますように。



長く一緒に居られるように、うなぎを飼い始めた。うなぎの寿命は数十年で、百五十年以上生きた例もあるらしい。でも……スーパーのチラシに土用丑の日の蒲焼きが掲載されるたび、家族がうなぎの水槽を何度もチラ見する。だめ!百五十年飼うつもりなんだから我慢して!



デートの待ち合わせに手袋をして行くかどうか迷った。外はちらほら雪が舞っているし、風も冷たそうだ。迷った結果、我慢することにした。できるだけ手を冷やして、それを口実に、普段外では絶対に手を繋いでくれない彼に、温めてもらえるかもしれない。そのためならいくらだって我慢できる。



駅前広場大時計前、人混みに紛れ込んで待つこと数分。「もうすぐ着くよ」と彼からメールが届いた。久しぶりにのデートに心躍らせながら空を見上げると、美しい三日月が浮かんでいた。前回のデートはたしか新月の夜だった。三週間分、溜まりに溜まった話題。さて、まずは何から話そうか。



みんなに内緒で付き合っている彼と、テーブルの下でこっそり手を繋いだ。秘密はどきどきするし、この関係は絶対にバレないと思っていた。でもそう思っているのは当人たちだけ。秘密は「必」ずバレるのだ。



押しつぶされるように抱きしめられたら、ふわりと洗剤の香りがした。彼の広い背中に腕を回し、ぎゅうとしがみつきながら目を閉じる。幸せににおいがあったら、こんな感じなのかもしれないと思った。



彼の部屋に着いてすぐ、リップクリームを忘れたことに気が付いた。外は雪が降っていて、ようやく辿り着いたというのに、これからコンビニまで行くのも億劫。乾いた唇を指で弄っていたら、彼が何かを差し出した。スティックのりだった。確かに唇は保護されそうだけれど、くっつくくっつく!



飲み会で隣に座った後輩に他愛ない雑談のつもりで「初夢にきみが出てきたよ」と伝えると、彼は予想外に食いつき、夢の内容を訊ねる。「一緒にエリーゼ食べてた」「エリーゼ?」「お菓子の」言うと彼はお腹を抱えてけたけた笑い「じゃあ今から夢を現実にしましょうか」とわたしの手を引いた。



「おまえ生命線短いな」と笑いながら、彼は油性ペンでわたしの生命線を書き足した。「これで長生きできるな」そうだね、不器用なきみを遺していけないからね。言うと、彼は拳を握って「ボタン付けはできるようになったろうが!」と反論したけれど、その袖口のボタンは取れかかっていた。



大事な仕事の前、緊張で会話すら成り立たないわたしを見兼ねた先輩が、マジックで手の平に「人」と書いてくれた。昔からよく聞く古典的な方法だったけれど。先輩に触れられた手から全身へ熱が広がり、もう緊張どころの騒ぎではなかった。ああ、まさかこんなときに、恋の存在に気付くなんて。