「かづ兄は親が離婚して片親になって、伯父さんのでっかい会社をほぼ強制的に継ぐことになって。俺が父さんを奪ったせいで、人生変わっちゃったんだよね」


 嘲笑を浮かべて自分を責めるようなことを言うので、私は顔を強張らせて首を横に振る。


「奪ったなんて……嘉月さんは絶対そんなふうに思ってないよ。それに、親のことは朝陽くんのせいじゃない」
「うん、わかってる。でも、俺はずっと申し訳ない気持ちがあるんだ。俺は両親ふたりともそろってて、好きなことやって生きてるからさ」


 それを聞いて、ふと夜桜を見たときの嘉月さんの発言を思い出した。


『似ていなさすぎるな。性格も顔も、生き方も』
『俺は暗くて静かな月で、朝陽は周りを明るくする太陽』


 嘉月さんは、自分が苦労したことを朝陽くんのせいだと思うような人ではない。それは断言する。ただ、何不自由なく暮らしている弟を羨ましく思う気持ちはあったのかもしれない。

 もしかして、彼の愛想が決していいとは言えないのも、生まれつきとかではなく家庭環境のせいだったりするのかな。きっと、まだまだ私の知らない彼がいるんだろう。

 複雑な気持ちで伏し目がちになる私に、朝陽くんは穏やかな笑みを向ける。