今世では違ってもナディアは元王妃だ。身体に染みついた教養の数々が、『びっくりしたわ!』と叫びたい彼女をなんとか抑え込む。
男はナディアの言葉を聞いて一瞬だけ眉をひそめると、音もなく離れていった。
ほっとしたナディアは、手のひらに残る感触を忘れようとドレスの裾をつまんで上品に頭を下げた。
「転ぶところを助けていただきありがとうございます。よろしければ親切なあなた様のお名前を伺っても?」
「ゲルハルトだ」
「そう、ゲルハルト様――えっ、ゲルハルト様?」
「そうだが」
ナディアがこの男の存在に驚かされるのは果たして何度目か。
彼女はその名を知っていた。
男はナディアの言葉を聞いて一瞬だけ眉をひそめると、音もなく離れていった。
ほっとしたナディアは、手のひらに残る感触を忘れようとドレスの裾をつまんで上品に頭を下げた。
「転ぶところを助けていただきありがとうございます。よろしければ親切なあなた様のお名前を伺っても?」
「ゲルハルトだ」
「そう、ゲルハルト様――えっ、ゲルハルト様?」
「そうだが」
ナディアがこの男の存在に驚かされるのは果たして何度目か。
彼女はその名を知っていた。

