貢ぎ物の令嬢ですが、敵国陛下に溺愛されてます!~二度目の人生は黒狼王のお妃ルート!?~

(もう少し早くここでパーティーを開いてくれればよかったのに。そうしたらきっと、たくさん咲いているところが見られたはず……)

 目の前に開けた場所が広がり、思わず足を止める。

 大理石でできた四阿(あずまや)の陰に、ひと際深い漆黒が立ち尽くしていた。否、それは夜の闇が集まったなにかではなく、人の形をしている。

 柱にもたれているその男はひとりだった。

 これまで男女の組み合わせばかりだったこともあり、奇妙に感じて歩み寄ろうとしたナディアだが、ふと途中で足を止めた。

 視線の先に、人間にはありえないものがあったからだ。

 男の頭上には、明らかに狼のものと思わしき耳が生えている。