王妃、あるいは子爵令嬢としての待遇ならば、すぐに医者の手で快癒するような軽いものだが、今の彼女には違う。

 薬さえあればすぐに下がる高熱も、喉の激しい痛みも割れるような頭痛も、刻一刻と命を削っていくのを肌で感じ取る。

 このまま死ぬのだと、惨めな一生を終えるのだとここに来てようやくナディアは生きる希望を失った。

 しかし悲しいかな、丈夫な身体に生まれついた彼女は、病に苦しみながらもついに三十日目を迎えたのだった。

「……っ、はあ」

 ナディアは激しくむせ、かさついた自分の喉に少しでも潤いを与えようと石壁の表面を包む苔に唇を這わせた。