しかし武骨な手は彼女の頬に触れなかった。
あと少しの距離で重なった距離を、ナディアはなぜか残念に感じてしまう。
「ちょっと寝不足なだけ。やっぱりあなたたちの病は人間の私にかからないみたい」
「……ならばいいが」
「あ、でもエセルたちも元気よ。ふわふわした耳と尻尾の人がかかるようね」
ナディアの目がゲルハルトの頭上に移る。
いつかは触れてみたいと思っているやわらかな黒い狼の耳。
音のするほうを向く耳は、今はナディアに集中していた。
「同じ獣人でもそんなふうに違うのね。ひとくくりに考えるのは間違いだったんだって思うわ」
「おまえはよく喋るな」

