貢ぎ物の令嬢ですが、敵国陛下に溺愛されてます！～二度目の人生は黒狼王のお妃ルート!?～

「あのふたりは支度が早すぎるのよ。平民の頃からそうしていたのかしらね」

　嫌な夢ではあったが、現実は違う。

　気持ちのいい朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、ナディアは言われた通り食堂へ向かった。

　勝手知ったる廊下はやはり十七歳のナディアが住んでいたリシャール子爵家のもので、顔を合わせる使用人たちも彼女の知った人々だった。

　温かく優しい家族に早く会いたいと思うのは、あんな夢のせいで心細くなったせいだろう。十七歳にもなって恥ずかしいが、気持ちを抑えられないナディアの足は自然と速くなった。

　使用人が笑顔で開いた食堂のドアの向こうには、既に席についた父母の姿がある。