策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師

 昔からなんだ。今でもだ(・・・・)って、いらない強調だから。

「俺の隣にいれば、またか、またかと嫌というほど見られる光景だ」
 私に焼きもちを妬かれなくなったら、寂しいくせに。

「寂しいさ」
 また心を読む。寂しいんだ、可愛い。

「永遠に見惚れられる、かっこいい男でありつづけたい、桃にだけは」
 真顔で言うセリフに力が抜けちゃう。

 今でも十分すぎるほど、中身も外見もかっこよくて惚れぼれしちゃってるってば。
 
「誰かに奪われたくなかったら、しっかり俺の手を握っておけ」
 つなぐ手を慌てて、ぎゅっと握った。

「冗談だ、誰も奪えるわけがないだろう、桃だけだ」

「今は、もうこの手も腕も頭のてっぺんから爪先まで卯波先生は、すべて私のもの」

 手をつなぐ逞しい左腕に、左腕をぎゅっと絡めた。

「卯波先生に出逢えて本当に幸せ」
「だろうな」
「だろうなって素っ気ないです、卯波先生は?」

 歩きながら視線を下に落として、じっと見つめてくる。

「桃を愛することは、呼吸をするようなもの。止めることはできない、生きるために必要だ」

 なんて情熱的なの。こんなに深く愛されて、どれほど私は幸せ者なの。

 それに貴公子然とした美形だから、スマートなセリフが様になり、見惚れるかっこよさ。

 思わず仰ぎ見たら、反射した西日が眩しくて目を射る。

 目が痛いくらいの強い光を直視しちゃったから、ちかちか(くら)んだ目を閉じたら、瞼に点滅する星が飛び交う。

 眩しくて、とてもじゃないけれど目が開けていられない。

 次の瞬間、閉じた目がバネで弾かれたみたいに見開いた。

 唇が温かくなった、もしかして。
 触れるか触れないかだったけれど、唇にぬくもりを感じた。

 ゆっくりと卯波先生の顔を見上げた。
「前を向け、よそ見をしない」
 
 まっすぐ前を向き、歩を進める姿は、相変わらず胸を張って背筋をぴんと伸ばして、自信がみなぎる。

 私を想ってくれる、卯波先生の柔らかな温かい感情が唇と唇から伝わり、私のハートに届いた。

 あっさり、不意打ちで驚いたけれどね。

「俺の前で目を閉じるとは、隙がありすぎる」
「こういう隙は好きですか?」

「それはシャレなのか? いつから、そんな大胆なことを言う可愛い小悪魔になったんだ」

 控えめに漏らす、卯波先生の笑い声を耳に感じて、卯波先生の左腕に右腕を絡めた。

 風が吹くと庭の草一面が囁くみたいに、かさかさと揺れる。私たちのアツアツぶりを噂しているの? 

 二度目のキスをしてくれたの見たでしょ。私、とっても幸せ。

「桃は、風や草木の気持ちがわかるのか」
「ん?」
 どういうこと?

「この風の音や草木が揺れる音は、俺たちのことを噂しているんだろう?」

「え」
 また、心を読む。今、とっても恥ずかしい幸せを味わっている。