風が顔を叩きつけ、視界がわずかに揺れる。
それでも、背中に感じる叶兎くんの体温の安心感に、自然とぎゅっと力が入った。
恐る恐る振り返れば、後ろのバイクも同じスピードで追いかけてきている。
『あの人達一体…?!』
「あの見た目からして、多分BS、俺らの敵組織」
敵組織…!
でもなんでこんないきなり…
「あいつらどっから来たんだ…?そんな偶然通りかかるなんて思えない…。とにかく一気に逃げるから落ちないでね」
目の前の曲がり角で急旋回して、また次の角で、そのまた次の角でも急カーブ。
反射的に、前に座っている叶兎くんに更に強く抱きついた。
風を切る音とタイヤの摩擦音、背中越しに伝わる鼓動。
ドキドキするのは怖さだけじゃななった。
心臓の音…聞こえてたらどうしよう
…いや、後ろから抱きついてるから…絶対聞こえてる。
目の前の大きな段差をなんの躊躇もなく飛び出して急ブレーキ、
ザザザザとダイヤは大きな音を出して急停止した。
気づけば追ってきたバイクの姿はもうなく、どうやら逃げ切れたらしい。
「はーーーー…久々に疲れた…。胡桃、大丈夫だった?」
『………』
「胡桃?」
『…ふふ、あははっ、何今の、叶兎くん運転うますぎ!』
こんな時に笑ってるなんて自分でもおかしいと思う。
でもなんだか、初めてのことだらけで、楽しかったのかもしれない。
「無事ならよかった…!」
背中越しに、そっと呟く声。
叶兎くんは私の知らないことを沢山知ってて、
知らない世界を見せてもらって、どんどん私の中の景色が広がっていくような気がする。
その時…
「叶兎さん!!」
その時、後方から叶兎くんを呼ぶ声が響いた。

