でも叶兎くんの言ってることは正しい。

私なんかが飛び込めば、かえって迷惑をかけてしまうだけだったのに。



「喧嘩の間に割って入るとか危なすぎ。…心配させんな」



その声音は怒りじゃなくて、確かに私を思ってのものだった。
胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。

…心配、してくれてたの?



「でも、お前があいつらに隙を作ってくれたから俺も動けた」



ありがとう、そう言って叶兎くんの手が私の頭に触れた。

ポンっと軽く置かれた掌の重みがやけに暖かくて…心臓が跳ねる。


言葉にならない感情が、脈打っていた。



「お二人さーん、いい雰囲気のところ悪いけど、人が集まる前にここから離れるよ」



後ろから春流くんの声がしてハっと我に帰る。

そういえばみんないるんだった。


瑠奈ちゃんと心音ちゃんに関してはニヤニヤしながらこちらを見ている。

二人ともさっきまで人質にされてたのに…メンタル強いな。



「胡桃、一旦生徒会寮に戻るから一緒に来て」

『うん…?わかった』



叶兎くんの言葉に従って歩き出しながら、私はまだ心臓の高鳴りを抑えきれずにいた。

守られた安心感と頭に残る温もり。
それが胸の奥に焼きついて、しばらくは消えそうになかった。