────っ!
「………………は?」
振り下ろされる直前、私の体は思考よりも早く動いていた。
滑り込ませた左手で相手の肩をぐっと引き寄せ、軸をずらす。
同時に右手で振り下ろされたモップの柄を鋭く奪い取った。
そのまま背後から体を抱え込むように拘束し、奪ったモップの持ち手を女子生徒の顔の目と鼻の先に突きつける。
『喧嘩なら…受けて立つけど?』
お父さんに教わった護身術が役に立つ日が来るなんて思わなかった。
ありがとうお父さん。
さすがに体格差のある男子生徒相手だと厳しいかもしれないけれど、普通の女子生徒相手なら負ける気はしない。
「な、………」
囲んでいた女子たちが一斉に気圧され、視線を逸らす。
『…少しでも彼らに近づきたいって思うなら、ちゃんと、本人を見てあげなよ』
「…は?」
呆然とする女子を解放し、手にしたモップを静かに床へ置いた。
私だって昨日転校してきたばかりで彼らのことはよく知らない。
…けど、「完璧な吸血鬼」として祭り上げる彼女たちの姿が、どこか寂しく思えた。
威圧感に飲まれた集団をサッと引き分け、私は背を向けて廊下へと踏み出す。
そして──
「胡桃…」
『わっ…!?』
角の影に立っていた人物に名前を呼ばれ、私は跳び上がらんばかりに驚いた。
廊下を曲がってすぐそこで私の名前を呼んだのは、
赤羽くんだった。


