保健室を抜け出し、廊下で深呼吸を一つ。
ドタバタ続きの午前中にすっかり体力を削られ、肩の力を抜いた、まさにその瞬間だった。
「ねえ、ちょっといい?」
不意に背後から、ツンと刺すような甲高い声が飛んできた。
振り返る間もなく、私の肩が強く掴まれる。
驚いて振り返ると、そこには数人の女子生徒が立っていた。
腕を組んで私を品定めするように睨みつける鋭い視線。
その目を見た瞬間、胸の奥が冷たく冷えていくのが分かった。
…あ、これ、私完全に嫌われてる。
女子グループの中心にいる取り巻きを従えた女の子が、私を射殺しそうな勢いで一歩詰め寄ってきた。
「あんたさぁマジで何なの?」
『…何が?』
何が、なんてわざわざ聞かなくても理由は百も承知だ。
朝から生徒会のみんなと一緒に登校してきた事、教室での事…さっき天音くんと保健室に入っていくところも見られていたのかもしれない。
嫌われる要素なら、これでもかというほど揃っていた。
「とぼけないで。転校生のくせに月城くんの事なんか下の名前で呼んじゃって、挙句の果てにはあの赤羽くんに血を吸われるとか。さっき栗栖くんとも話してたみたいだし、マジありえないんだけど」
『……』
「は?何、シカト?」
矢継ぎ早に投げつけられる怒声。
そんなこと言われても……すぎる。
そもそも血を吸われたのは私の意志じゃないし…!
けれど、ここで下手に言い返したところで火に油を注ぐだけだ。
私は固く口を閉ざすしかなかった。
「一体どうやって気に入られた訳?転校早々色仕掛けでもしたの?」
『いたっ…』
ドン、と強く胸元を押され、突き飛ばされた肩が固い廊下の壁に激しくぶつかる。
いつの間にか周りの人数が増えていて、私は完全に逃げ場のない壁際へと追い詰められていた。
「ねぇちょっと聞いてんの?何とか言えよ」
冷や汗が背中を伝った。
こういう暴言に対して…感情的に言い返しても意味がない。
まともに相手をしたところで、彼女たちは自分が納得する答えしか受け入れないのだから。
私はゆっくりと息を吐き出して相手の目を見つめ返した。
言葉を選び、努めて冷静に、舐められないように正論を叩きつける。
『…私は、何もしてない。それに、あの人達にただの色仕掛けが通用するように見える?」
「は…、」
『…仮にそう思ってるなら彼らの事を悪く言ってるのと同じだよ』
「…………」
目の前の女子達は一瞬、言葉に詰まった。
そもそも、あの人達に気に入られようとするような汚い手が通用する訳ない
…それに、見えてるのは目の前の相手じゃなくて“血”なんだから。
私だって、“血が気に入られた”ただそれだけの事だ。


