【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ




人混みを抜けてホールの裏口を出ると、外の空気はひんやりと冷たくて。

その静寂に包まれた庭園の真ん中で、大きな噴水が上げる水音が、サラサラと静かな夜に溶け込んでいた。



『……すごい、静か。』

「やっと、二人きりになれた。」



静かな空気に、さっきまで張り詰めていた緊張の糸がふっと解けていくようだった。

堂々と立っていたあの姿から一転して、今の叶兎くんは穏やかで少し照れたように笑っている。



『…さっきはありがとう。庇ってくれて。』

「うん。……でもごめん、1人にするべきじゃなかったよね。」



申し訳なさそうに私の顔を覗き込んでくる叶兎くんに、私は慌てて首を振った。



『ううん、仕方ないよ!それに、ああいう意見があるのも覚悟の上だし!』



…そう口では言っても、胸の奥の不安は完全には消えていなかった。

軽く笑ってみせると、叶兎くんはほんの少し苦い笑みを浮かべて黙り込んでしまう。

その横顔に、私が想像するよりずっと大きな責任と葛藤が見えた気がした。



……あ。

ふと、噴水の向こうにぽつんと置かれたブランコが目に入る。

風に揺れるその姿に、私は話題を逸らすように指を差した。



『…あ。叶兎くんあれ見て!ブランコがあるよ!』

「……ほんとだ。なんでこんな所に?」



不思議そうに首をかしげる叶兎くんに、私は腕を引いて駆け寄った。



『気分転換に良くない?』



そう言ってブランコに腰を下ろすと、夜の静けさの中で金属の軋む音が小さく響いた。



「…胡桃。」

『あんな空気の中じゃ、息詰まっちゃうよ。……せっかく二人きりになれたんだから、今ぐらい重い話はなし…!』



笑いながらそう宣言すると、叶兎くんは諦めたように「はぁ」と小さく吐息を漏らし、困ったように笑った。



「……胡桃には敵わないな。じゃあ、俺が押してあげる。」

『わっ、押すの!?』



背中に触れる手が、そっと押す。

ぎい、と鎖が鳴り、ブランコがゆっくりと揺れた。


夜風が頬を撫で、少し冷たい風が気持ちいい。



「……久しぶりだね。こうやってゆっくりできるの。」

『叶兎くん、ずっと忙しかったもんね。』



しばらくの沈黙の後、やがて私は足を止めて振り向いた。

街灯の光が叶兎くんの横顔を照らし、真っ直ぐな瞳がこちらを見つめている。