『……重い話はなしって言ったけど、私さ。本当は今日、ずっと不安だったの。』



ついそんな言葉を零すと、叶兎くんは私の前に回って言った。



「……胡桃。ちょっと動かないで。」

『え……?』



次の瞬間、正面からそっと抱きしめられる。

胸の奥が跳ね上がる。
叶兎くんの腕の中で、カチャリと小さな音がした。
──ネックレスの留め具が外れる音。


叶兎くんは契約の証の指輪を手に取り、もう片方の手で私の左手を包み込む。

その手は、驚くほどあたたかかった。



「俺の隣は胡桃しかありえない。不安がなくなるまで何回でも言うよ。嫌って言われても、もう離してあげない。」



イタズラみたいな笑顔なのに、瞳だけは真剣で、いつも心の奥まで射抜いてくる。



『……私だって、叶兎くんのこと離してあげない!』



私はこの人の隣にいたい。どんな未来でも。

思わず笑い合って、ふっと息がこぼれた。


そして叶兎くんは跪いて私の手の甲にそっと口づけを落とす。

月明かりの下で、金色の指輪を左手の薬指にはめた。
指輪が星の光を反射して、きらりと輝く。

まるで結婚式みたいで、心臓の音がうるさくてたまらない。



「……全部終わったら、指にはめるって言ったでしょ。これが俺の気持ち。」



その笑顔に、また胸がぎゅっと締め付けられた。

そして立ち上がった叶兎くんが左手を引き、ぎゅっと抱き寄せてくる。


……叶兎くんは、いつも言葉でも動作でも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
今度は、私の番だ。


私はそのまま叶兎くんの胸元を掴み、見上げると至近距離に叶兎くんの顔。
赤い瞳と視線がぶつかって、息が止まる。



『………これは、私の気持ち…っ!』



私は意を決して、そっと背伸びをすると、そっと叶兎くんの頬に口づけた。


……あーーーもうっ。私の意気地なし…!

唇にいく勇気は、あと一歩足りなかった。


急に恥ずかしくなって逃げるように距離を取ろうとしたその瞬間、叶兎くんの腕がするりと私の腰を捕らえて離さない。



「……ねえ、ほんとかわいすぎ。…今のは、反則」



息がかかる距離で囁かれて、背筋がびくりと震える。

顔を見ると、叶兎くんの頬がほんのり赤く染まっていた。