人混みを抜けてホールの裏口を出ると、外の空気はひんやりと冷たくて。

星の下で噴水の水音が静かな夜に溶けていた。



『……すごい、静か。』

「やっと、二人きりになれた。」



静かな空気に、さっきまで張り詰めていた緊張の糸がふっと解けていくようだった。

堂々と立っていたあの姿から一転して、今の叶兎くんは穏やかで少し照れたように笑っている。



『…さっきはありがとう。庇ってくれて。』

「うん。……でもごめん、1人にするべきじゃなかったよね。」

『仕方ないよ。それに、ああいう意見があるのも覚悟の上だし。』



…そう口では言っても、胸の奥の不安は完全には消えていなかった。

軽く笑ってみせると、叶兎くんはほんの少し苦い笑みを浮かべて黙り込んでしまう。

その横顔に、私が想像するよりずっと大きな責任と葛藤が見えた気がした。



……あ。

ふと、噴水の向こうにぽつんと置かれたブランコが目に入る。

風に揺れるその姿に、私は話題を逸らすように指を差した。



『あ! あれ、ブランコ?』

「……ほんとだ。なんでこんな所に?」

『気分転換に良くない?』



そう言ってブランコに腰を下ろすと、夜の静けさの中で金属の軋む音が小さく響いた。


「…胡桃。」

『あんな空気の中じゃ、息詰まっちゃうよ。……せっかく二人きりになれたんだから、今ぐらい重い話はなし…!』



笑いながら言うと、叶兎くんは観念したように小さく息をついて笑う。



「……胡桃には敵わないな。じゃあ押してあげる。」

『わっ、押すの!?』



背中に触れる手が、そっと押す。
ぎい、と鎖が鳴り、ブランコがゆっくりと揺れた。

夜風が頬を撫で、少し冷たい風が気持ちいい。



「……久しぶりだね。こうやってゆっくりできるの。」

『叶兎くん、ずっと忙しかったもんね。』



しばらくの沈黙の後、やがて私は足を止めて振り向いた。

街灯の光が叶兎くんの横顔を照らし、真っ直ぐな瞳がこちらを見つめている。