「…ねえ、あなた、人間よね?」



反射的に振り返ると数人の令嬢たちが立っていた。

煌びやかなドレスの裾が揺れ、香水の香りが鼻をくすぐる。
けれど、その美しさの奥にある視線は氷のように冷たかった。



「どうして“赤羽様”の隣にいられるの?」

「身分を偽って入り込んだんじゃないでしょうね?」



あまりの勢いに後ずさると令嬢のひとりが一歩前へ近づいてくる。

…な、なんなのこの人達!!



「釣り合わないって分かってる?赤羽家は吸血鬼の中でも血筋の強い名家よ。ただの人間が、どうやって取り入ったの?」



肯定的な視線ばかりじゃないことくらい最初から分かっていたけど、こうして面と向かって突きつけられると心の奥がぐらりと揺れる。

学園に転校してきたばかりの頃も、似たような目を向けられた。

でも、あの時とは違う。

この人たちは“叶兎くんと同じ世界にいる”吸血鬼たち。
私とは根本から違う存在だ。



『…私は、“赤羽叶兎”っていう1人の人を見てここにいるんです。釣り合う釣り合わないとか関係ない。…それに、叶兎くんが私を選んでくれたっていう事実がそれを証明してるから』



令嬢の眉がぴくりと動いた。

…でも。ただの人間だからって、怖気付いてあげない。
文句を言われる筋合いなんてないもん。

これも全部、いつも叶兎くんが想いを伝えてくれるから自信を持てるようになったんだ。



「……何様のつもり?」



…しつこいな。まだ絡んでくるの…



「いい加減にしなよ」



横で様子を見ていた朔が、呆れたように令嬢を睨みつける。



『……朔?』

「ここはそういう場所じゃない。……場をわきまえなよ」



強く言い切った声には、必死に押さえ込んだ怒気が滲んでいた。
握られた拳に力がこもる。

きっと朔も分かっている。
ここで騒ぎを起こせば、自分の立場が危うくなる。

それでも、私を庇ってくれている。

でも令嬢達は朔の事を無視して、真っ直ぐ私の腕を掴んだ。



「赤羽様を惑わせて、利用してるんじゃないの?」



細い指先なのに、鋭く突き刺さり思わず息が詰まる。

その瞬間──



「…離せ。」