「ねえ、そんなのどこで覚えてくんの?」
低い声で呟き、私の顔を覗き込んでくる。
や、やばい…!
叶兎くんの変なスイッチ入れちゃったかもしれない…!
「……かわいすぎて、今すぐ押し倒してキスしたい。」
い、今そんな事したら式典に集中できなくなるっ…!
目が冗談じゃなくて、思わず息を呑む。
『っ、だ、ダメだよ!? 今から大事な式典なんだから……!』
「式典の前に、少しくらい魔除けのキスしても——」
『しないっ!!』
思わず声を張り上げて、近づく唇を両手で塞いだ。
ほんの少しでも動けば唇が触れてしまう距離。
息がかかって、心臓が暴れるように跳ねる。
…だって、軽いキスで終わるわけないんだもん……!
その時…
──ガチャッ。
勢いよく扉が開き、心臓がびくりと跳ねた。
反射的に叶兎くんを強く押し返して距離を取る。
「あら〜〜!やっぱりここにいた〜!」
入ってきたのは銀色の髪を揺らす華やかな女性。
その後ろからは、落ち着いた黒髪の男性。
「……母さん!? ノックくらい……!」
叶兎くんが少し焦った声を上げるけどそんなことお構いなしに、華恋さんは私を見つけた瞬間、キラキラしたルビーみたいな瞳で眩しいほどの笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。
──叶兎くんのご両親、華恋さんと湊さん。
文化祭の日に会った、あの2人だ。
直接会うのは文化祭以来だけど、メールや電話では何度かやりとりをしていた。

