「俺も我儘言っていい?」

『………我儘……?』



叶兎くんは一度深く息を吸い込むと、決意を込めるように真っ直ぐに言った。



『………俺と一緒に、来てくれませんか』



──心のどこかで、ずっと待っていた言葉。

たった一言でも、意味は全部伝わった。


人間として普通に生きるか、叶兎くんの隣に立つか。
その二択の答えはとっくに心の中で決まっていた。

ただ、後一歩踏み出す勇気がなかっただけで。


私は…特に夢も目標もはっきりしていなかった。

でも、叶兎くんと出会って、知らなかった世界を知って、
彼の隣で見る景色がいつの間にか私の日常になっていた。



「俺には胡桃が必要で……やっぱり、どんな時でも一番近くにいてほしいのは胡桃なんだ」



叶兎くんの言葉がまっすぐに胸の奥に落ちてくる。

その表情は少し緊張していて、でも嘘ひとつなくて。
勇気を出して言ってくれたのが分かった。

叶兎くんは私を、必要としてくれた。



『……私、叶兎くんと同じ世界が見たい。叶兎くんの隣で』



言葉を返すと、叶兎くんの目が見開かれ、やがて柔らかく笑った。



『私を連れていって。どこまでだって、ついていく覚悟はできてるから……!』



言葉にした瞬間、胸が軽くなった。

まるで、心の奥に突っかかっていた物が取り除かれたような気分。

叶兎くんの手が、そっと私の頬を撫でる。



「ありがとう、胡桃。…いつも俺が欲しい言葉以上のものをくれるからずるいよ」

『…それは叶兎くんもだよ?』



もう迷わない。

私は…叶兎くんの隣で生きていきたい。