総長は、甘くて危険な吸血鬼





数日後、俺は白星学園の一年生として正式に編入した。


制服の襟を整え、鏡の前で深呼吸する。

見慣れない制服姿。
“時雨”ではなく、“羽雨”としての新しい日々が始まる。



──監視対象、赤羽叶兎。

生徒会長であり、街の治安を担う《White Lilly》の総長。



初めの数日は生徒会のメンバーには干渉せず遠くから動向を観察していたけど、行動を追うだけでは見えてこない部分が多かった。

本当に理解するなら、ある程度近づくしかない。
でも、不用意に踏み込むことは禁じられている。


…うーん、どうしたものかな。


そんなある日、学園近くの商店街で不良グループ同士の抗争があった。
通報が相次ぎ街全体が騒然とする程の大きい騒動。


最近はWhite Lillyの活躍もあって治安が改善されつつあるって聞いてたけど…これは只事じゃなさそうだな。


騒ぎを聞きつけ現場に急行するWhite Lillyの後ろから、俺も背を追った。

けれど、戦況は圧倒的に不利だった。
一般人を庇いながらの戦闘は連携が崩れれば一瞬で瓦解する。


……あんな雑な連携の取り方じゃ被害が広がる。

赤羽叶兎は最前線で不良チームの頭と対等しているみたいだけど、後方まで指示が回っていない。



手を出すなと言われていたけど、これは…不可抗力。流石にこの状況で放って見ているのは気が引けた。

通りに出て、俺は声を張り上げる。



「北通りは人払いしてあるから無理に追うな!そこのメガネはあっちの階段下で待機しろ!」



一瞬、場が静まる。


「は?誰??」
「メガネ?」


突然現れた俺に突然指示され怪訝な表情を浮かべていたけど、俺は構わず続けた。


「茶髪の君、右の奴押さえて。あんたは後ろ見て。」


短く、的確に。

──久しぶりだな、“現場”の感覚。
最近は事務仕事が続いてたから。