「俺は君を、最も信頼しているからだ。」
信頼、ね…。
この人の口からそれを聞くのは、誇らしい反面、圧し潰されそうなほどの責任がのしかかってくる。
「若いが、君の冷静さと判断力は本部でも群を抜いている。だからこそ、君の目に任せたい。」
麗音さんの期待には答えたいし、断るつもりはない。
俺は一瞬だけ視線を落とし、息を整えた。
「具体的に、俺は何をすれば?」
「白星学園に生徒として潜り込み、叶兎くんを観察し、それを報告するだけでいい。入学手続きはこちらで済ませておく。」
麗音さんは書類を指で押さえ、静かに続ける。
「本名は伏せ、学園では“飛鳥馬羽雨”という名で登録する。どんなに信頼できる相手でも素性を明かしてはならない。叶兎くんの行動にはできるだけ干渉せず、見守る立場を徹底しろ」
「……偽名ですか。」
「赤羽家とは付き合いが長い分、本部関係者の名を知っている可能性がある。もし“一ノ瀬”の名を聞かれれば君の正体に気づかれるだろう。それでは意味がない。」
……確かに、俺が本名で接触したらすぐに正体を見抜かれてしまうだろう。
赤羽叶兎…俺はまだ直接会ったことはないけど、麗音さんの補佐官として働く俺の名前は知られている可能性が高い。
「……分かりました。この任務、引き受けます」
そう返せば、麗音さんの表情がわずかに緩む。
「期待している。彼が何を考え、どんな選択をするのか──君の目で確かめてきてくれ。」
差し出された封筒を両手で受け取る。
中身の重みが、そのまま新しい役割の重さに思えた。
報告するだけ、か。……本当にそれだけで済めばいいけど。

