「今の叶兎を麗音さんが見たら、がっかりするね」
「……さっきから何?お前に何が分かる」
「分かるよ。ずっと見てきたから。」
「勝手なこと言うな!お前に、麗音さんの何が──」
俺は叶兎の言葉に被せるように、続ける。
「今までの叶兎の活躍を見て、麗音さんは叶兎を後継者に決めた。」
一瞬、彼の呼吸が止まる。
俺はゆっくりと机の方へ歩み寄った。
──俺の仕事はもう終わった。
だから全部、話すよ。
「どうして麗音さんが、叶兎の実績を全部把握できてたんだと思う?」
「……」
叶兎は黙ったまま、答えを探すかのように目を泳がせる。
俺はゆっくりと息を吸い、覚悟を込めて口を開く。
「僕が……いや、俺がこの学園に来たのは、全て麗音さんの指示。」
灯りの下、叶兎の目が鋭く細まった。
「…………は?」
怒っているというより、理解が追いつかないという顔。
まあ…当然の反応だ。
俺はポケットから一枚のカードを取り出し、机の上に置いた。
金色の紋章が淡く光る──吸血鬼界の本部直属、選ばれた者にしか与えられない身分証。
「俺の本名は── 一ノ瀬時雨。」
真実を告げるように、名前の文字が光に反射する。
叶兎の瞳が、それを映して凍りついた。

