「疲れてるんだよ。自覚あるでしょ?」
「別に、これくらい平気。」
「最近ちゃんと寝てないし、食べてないでしょ。」
言葉を重ねても、彼は頑なに目を逸らす。
叶兎、こういう時頑固なんだよな…
でもこのまま放っておくわけにはいかない。
「自分のこと追い詰めすぎ。そんな状態じゃ、この先持たないよ。トップは自己管理くらいできないと。」
「……何様?そんなこと言われる筋合いは──」
「あるよ。」
言い切った瞬間、叶兎の手が止まった。
静かな部屋に時計の針の音だけが響く。
「自分のことばっかりで、胡桃とも全然話してないよね。」
「……何でそこで胡桃が出てくんの。」
「本気で言ってるの?」
淡々と答える叶兎に、心配よりも怒りが込み上げてきた。
君はそんなに周りが見えなくなるタイプじゃないだろ。
「……俺はもっと努力しないとまだまだトップに相応しい男になれない。自信を持って胡桃の隣に立って、今度こそ絶対に守るって誓ったんだ。だからこの程度で音を上げるわけには──」
「その胡桃にあんな顔させておいて、口では守りたいって? ……ふざけんな。」
俺は普段滅多に声を荒げない。
基本的に、深く相手に干渉しないようにしてきた。
…“飛鳥馬羽雨”は、偽物だから。
常に冷静に、見守ってきた。
初めて声を荒げた俺を見て叶兎は目を見開いた。
強気な瞳がわずかに揺れて、ほんの少しだけ迷いの色を帯びる。

